メッキの密着のしくみ
メッキの密着は、基材とメッキ層が強固に結合し、剥がれにくい状態を指します。この密着は、様々な要因が複雑に絡み合って実現されます。
密着のメカニズム
金属結合
水の性質をもっている最も小さな粒子を水の分子といいます。水は2つの水素原子と1つの酸素原子から成り立っている(エッチツー・オー)ので、水を電気分解すると陰極から水素ガスが発生し 陽極から酸素ガスが発生して水は減少します。メッキは、電気分解によって分子と原子に別けてメッキされる金属の原子と金属結合をさせて密着させます。
金属サビは非金属なので表面がサビているときは、 金属結合にならないので、密着不良になります。メッキの密着を良くするためにはメッキ浴中で被メッキ物表面が清浄であり、金属原子が顔を出している必要があります。
機械的結合
表面粗さ: 基材表面に微細な凹凸を作ることで、メッキ液が入り込み、物理的な絡み合いが生じます。
機械的な鍵: メッキ層が基材の凹凸に入り込むことで、物理的な鍵のように結合します。
化学結合
酸化膜: 基材表面に形成された酸化膜とメッキ層との間で化学反応が起こり、結合が形成されます。
合金層: 基材とメッキ層の界面で合金が生成され、両者を一体化させます。
拡散
原子レベルの混合: 基材とメッキ層の界面で、両者の原子が互いに拡散し、混合することで結合が強まります。
密着に影響を与える要因
基材の材質: 金属の種類、表面状態、清浄度によって密着性が大きく変化します。
前処理: 脱脂、酸洗、研磨などの前処理によって、基材表面の状態が変化し、密着性に影響を与えます。
メッキ液の組成: メッキ液の成分や濃度によって、析出するメッキ層の性質が変化し、密着性に影響を与えます。
メッキ条件: 電流密度、温度、pHなど、メッキ条件が変化すると、析出速度や結晶構造が変化し、密着性に影響を与えます。
応力: メッキ層に熱応力や機械的な応力がかかると、密着性が低下する可能性があります。
メッキの密着性の評価方法
テープテスト: 粘着テープを貼り付け、剥がすことで密着性を評価します。
スクラッチテスト: 鋭利な針などで表面を傷つけ、剥がれやすさを評価します。
引張試験: メッキ層と基材を引っ張り、剥がれるまでの力を測定します。
メッキの密着性の向上策
基材の表面処理: 表面を粗化させたり、酸化膜を除去したりすることで、密着性を向上させます。
メッキ液の最適化: メッキ液の組成やpHを調整することで、密着性を向上させます。
メッキ条件の調整: 電流密度や温度を最適化することで、密着性を向上させます。
下地メッキ: ニッケルや銅などの下地メッキを施すことで、密着性を向上させることがあります。
メッキの密着性 まとめ
メッキの密着は、基材とメッキ層の材質、表面状態、メッキ条件など、様々な要因が複雑に絡み合って実現されます。目的とする性能に合わせて、最適なメッキ条件を選択し、高い密着性を確保することが重要です。
より詳しい情報が必要な場合は、お気軽にご質問ください。
- 具体的なメッキの種類: ニッケル、クロム、銅など
- 基材の種類: 鉄、ステンレス、アルミなど
- 目的とする特性: 耐食性、耐摩耗性、導電性など
- 発生している問題: 密着不良、剥がれなど
素材とメッキが良好な密着を確保するために必要なこと
メッキ加工工程では、メッキの前処理が最も重要だと言われています。メッキ不良原因の80%はメッキの前処理不良だと昔の職人さんがよく言われていました。塗装などの他の表面処理技術と比べると前処理工程が長く、適切な工程で、注意深く処理しなければなりません。 前処理の目的は、油や酸化被膜を完全に除去し、素材表面を活性化し次工程のメッキが良好に密着できる状態にすることです。
メッキ加工する素材は、鉄、ステンレス、銅、真鍮、アルミなど様々な種類があります。鉄なら鉄用の前処理が必要です。熱処理などにより黒皮が付着している場合は、黒皮除去も必要です。アルミの場合なら、同じアルミでもA5052とADC12の番手や含まれている成分が違えば、前処理も番手に合わせた処理が必要です。このように前処理の方法や工程やノウハウなど無数にあり、前処理のレベルがそのメッキ業者の技術レベルに比例するといっても過言ではありません。
入荷される製品は、油の量が同じではありません。各工程ごとに、脱脂工程の出来栄え、酸処理工程の出来栄えをしっかり確認することがとても大事になっていきます。しかし、前処理が完全でも剥離することがあります。それは、要因の1つにメッキ加工中の作業ミスがあります。
光沢銀メッキ テープ剥離 密着テスト(カッターで切り込みを入れて、切り込み部分にテープを貼り、力強く引っ張ります) |
例えばラックと陰極バスバーとの接触不良、電流断続による二重メッキ、電流過大、メッキ浴成分の不調などがあります。その他には、 厚メッキによるメッキ皮膜の応力(ストレス) 、素地のビンホール中に含まれる異物によるガスの発生、サビの発生によるふくれ現象などによりメッキの密着不良が生じます。これらの多くの作業条件を全部満足させて密着の良いメッキをするには、正しい知識と注意深くメッキ加工をする経験が必要です。
参考文献:初級めっき 丸山 清 著