メッキの品質不良 乾燥工程 シミの発生原因と対策
メッキ加工の不良モードで多いのが、シミが製品に残っていたという不良があります。メッキ工程において、シミは非常に一般的な不良の一つです。製品の外観を損ねるだけでなく、製品の機能低下にもつながる可能性があるため、その発生原因と対策をしっかりと理解しておくことが重要です。メッキ加工が終わり、水洗を重ね、最終水洗工程はメッキ処理液の残留を完全に無くした状態で乾燥工程に移行する必要があります。
シミ発生の原因 水質レベル
シミが発生する原因は多岐にわたりますが、主な原因として以下が挙げられます。
不純物: 水中に含まれる不純物(金属イオン、有機物など)がメッキ液に混入し、析出することでシミとなることがあります。
pH: メッキ液のpHが適正範囲から外れると、メッキ反応が不安定になり、シミが発生しやすくなります。
硬度: 水の硬度が高いと、メッキ液にカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが沈殿し、シミの原因となることがあります。
最終水洗工程には、電導度を1μS/cm 以下のイオン交換水やRO 水を用いるなど出来るだけ綺麗な水を利用することが大切です。乾燥工程でメッキ表面にシミといった外観不良の品質トラブルを引き起こすことがあります。乾燥工程の役割は、メッキの仕上がりの最終段階で完全に水濡れしている金属表面から、水素結合または水和している状態の水を除去して乾燥面を形成することです。注意点は、水分を蒸発させて乾燥させないということです。金メッキ加工の場合は、金メッキ浴の直前の水洗工程では、金メッキ浴に不純物を持ち込まない観点から、純水を導入することがオススメです。
いくら純水で洗浄してもメッキ表面に熱を加えて水分を蒸発させると、水分が蒸発していく間の時間経過で大気中のいろいろな汚れを溶かし込みながら濃縮していき、特にイオン性の汚れを巻き込んだ場合は腐食を誘発する場合があります。非イオン性であっても蒸発残渣として表面に残り”シミ”の原因になりやすいと言われています。
水質管理のポイント
ろ過: メッキ液に使用する水をろ過し、不純物を除去します。
イオン交換: イオン交換樹脂を用いて、水中のイオンを除去します。
pH調整: pH調整剤を用いて、メッキ液のpHを適正範囲に調整します。
乾燥工程では、水の蒸発時に空気中の汚れが溶け込み乾燥し「乾燥湯じみ」が発生します。ポイントは、いかに水分を短時間で吹き飛ばすかということが重要です。環境規制がかかる前、フロンやトリクレンなどの有機溶剤を使用していた場合は、蒸発しやすく速乾性ですので、シミの品質トラブルは皆無でした。
乾燥方法:乾燥工程で起こり得るメッキ表面の”しみ”対策
温度: 乾燥温度が低すぎると、メッキ液の残留物が乾燥しきれず、シミになることがあります。一方、高温すぎると、メッキ皮膜が変色したり、割れが生じる可能性があります。
湿度: 高湿度下での乾燥は、水滴がメッキ表面に残留し、シミの原因となることがあります。
溶接部品の重なりからでる液残りなどは、後工程で超音波を導入し洗浄する
通常洗浄で洗浄しきれない場合は、超音波のキャビテーションにより洗浄することで洗浄できる場合があります。
湯洗浄工程と水洗浄工程を繰り返し実施する
お湯と水の温度差を利用して洗浄します。金属は伸縮と膨張するのを利用して洗浄効果を高めることができます。
遠心分離式脱水機や真空乾燥機が効果的
エアーなどで水分をできるだけ瞬間的に飛ばしてしまう工夫をする。乾燥空気をメッキ表面に吹き付けるなどしてできるだけ乾燥状態の空気を供給する。遠心分離式脱水機や真空乾燥機が効果的です。
高温乾燥は避ける。乾燥機内温度をできれば80 ℃付近
②メッキ皮膜の性能や機能をできるだけ正常に保っためには、乾燥機内温度をできれば80 ℃付近を保ちながら乾燥させる工夫と管理が重要です。金属表面は水分が飛んで乾燥するに伴い大気中では酸化皮膜形成が進みます。その皮膜はできるだけ薄く清浄な状態で形成したいので、あまり高温乾燥は避けなければいけません。
乾燥工程のポイント
乾燥温度: メッキの種類や材質に応じて、最適な乾燥温度を設定します。
乾燥時間: メッキ液が完全に乾燥する時間を確保します。
乾燥雰囲気: 清浄な乾燥雰囲気を確保します。
定期的な清掃や維持活動
乾燥機内にイオン性のガスなどが入り込まないように、例えば、塩化水素ガスやミストを発生させるような処理液を乾燥機周辺から遠ざけたり作業場内の風向きによってレイアウト変更対策と管理が必要になります。定期的な乾燥機内の清掃や腐食有無の点検をして改善と適切な維持管理を心掛けることが乾燥工程の重要な管理項目になります。
環境のよい場所で保管・環境のよい作業環境でメッキ加工
環境: 高温多湿な環境下での保管は、メッキ皮膜の劣化を促進し、シミが発生しやすくなります。
包装: 適切な包装を行わないと、メッキ製品同士が擦れて傷つき、シミの原因となることがあります。
乾燥工程では極力短時間での乾燥を心掛け、乾燥したらできるだけ速やかに環境のよい室温付近の仕上り保管場所に移動させることです。
酸処理で使用する塩酸のけむりがモクモクとした作業環境、メッキ工場は酸っぽい、臭い?と言われていた時代があります。局所排気装置などが能力不足などが原因であることがあります。品質だけでなく、作業者の健康にも影響を及ぼすので、十分な排気能力がある、ダクトの設置が必要です。
まとめ
メッキ不良であるシミの発生原因は多岐にわたりますが、水質管理、乾燥工程の最適化、保管環境の改善などの対策を総合的に行うことで、その発生を抑制することができます。
- メッキの種類:金メッキ、銀メッキ、錫メッキ、 ニッケルメッキ、クロムメッキなど
- 基材の種類: 鉄、ステンレス、アルミなど
- シミの色や形状: 黒い斑点、白い粉など
- シミが発生する箇所: メッキ表面全体、一部など
- メッキ工程の詳細: 前処理、メッキ、後処理など
これらの情報に基づいて、より具体的な対策をご提案することができます。
参考文献:めっき加工のツボとコツ Q&A 星野芳明 著